小沢問題で検察に追従するマスメディアの異常

昨年(2009年)3月から1年近く続いて来た民主党小沢一郎幹事長をめぐる政治資金疑惑に対する検察とマスメディアの動きにはとても異常なものを感じています。今にも小沢氏が逮捕されるかのようにあれだけ騒いで来た割には、一部でなされていたかなり”無理筋の”捜査ではなかいとの指摘通り、秘書や元秘書は逮捕されたものの小沢幹事長自身については嫌疑不十分ということで不起訴という結果になりました。

世論は作られる?

不起訴という結果にも限らず、世論調査では小沢氏に幹事長辞任を求める声が7割を超えたというのです(共同通信全国世論調査)。これについて小沢氏は小沢一郎は不正なカネを受け取っているけしからん人物であるという報道の後の世論調査だ」と記者会見で述べました。これは正にその通りだと思います。西松建設事件に関する疑惑も含めると、この1年近く、大多数のマスメディアの報道は検察の一方的なリークを無批判にたれ流す報道で小沢氏は悪いことをやっているというイメージを国民に植え付けてきました。


実際、逮捕された秘書・元秘書の起訴事実についてもどれだけ悪質な犯罪であったかどうかをちゃんと理解している人は少ないでしょう。


インターネットなどで通して他の意見や情報に触れることのない人々は毎日、洪水のように流される小沢バッシングに影響されてしまいます。ただ、それでもラジオやネットの世論調査では7割から8割は「幹事長は辞めるべきではない」という逆の結果が出ているとも言われるので、やはり得ている情報により人々の判断は大いに左右されるということだと思います。

検察によるリークはあるか?

”リーク”と呼ばれる検察が捜査情報を漏らす行為は公務員法における守秘義務違反ですが、法務省東京地検特捜部による報道機関へのリークはあるかと尋ねた新党大地代表の鈴木宗男議員の質問書に対して、リークはないとの見解を示しました。

毎日新聞東京本社特別編集委員岸井成格(しげただ)氏は「検察は記者の質問に核心に迫る発言はしない。記者は、その時の検察官の顔の表情を読んで、本当かどうかの記事を書く。」と検察によるリークの存在を否定しました。しかし、フリージャーナリスト、大谷昭宏氏は「小沢さんが記者会見の直前になって確認書を書いたことが押収したパソコンを解析していったら分かったと報道されたが、そんなことを検察のリークなしに書けるはずがない」とリークがなかったとは言えないことを指摘しました(『サンデープロジェクト』 2010.2.7)

検察の裏金問題をマスメディアで内部告発しようとしていた矢先、口封じのために大阪地検特捜部に微罪で逮捕された元大阪高検公安部長の三井環(たまき)氏は岩上安身氏によるインタビューの中で「捜査にはリークはつきもの」と言い、リークを検察内部では”風を吹かす”という内部用語があることを明かしています。

検察はマスメディアや参考人らに協力してもらうためにリークする」、「逮捕される頃には被疑者を大悪人にしたてておけば、捜査が失敗してもダメージが少なくなる」と語っています。



中立性を欠いた報道

実際は検察からのリークでありながら、違法の謗りを免れるためのいわゆる「関係者によると報道」はずるいやり方ですね。(「”検察”関係者」と書いたり、”東京地検”関係者と書いたりすると、出入り禁止になるそうです)。
これによって被疑者に不利な情報ばかりが流され、小沢氏側からのコメントはほとんど黙殺されています

弁護士側から「そのような供述をしていない」、「完全な誤報である」とFAXなどで抗議してもマスメディアはきちんと報じないというのは公平性をまったく無視した偏向報道です。

報道の論調は有罪と裁判で確定するまでは無罪のう扱いをするという「推定無罪の原則」や法律によって明確に犯罪と定義されていないような問題が発生した場合に、これを安易に犯罪とみなさないという「罪刑法定主義」もまったく顧みられていません。小沢氏の不起訴を伝える社会部長名で書いた「ほくそ笑むのはまだ早い」と題する産経新聞の記事(批判を受け削除された)などはその代表ですね。

これについては自民党河野太郎氏でさえ、自身のブログでこう言っています。


「日本の司法制度では、有罪が確定するまでは無罪である。被疑者の段階で、あたかも被疑者が悪人であるというような世論を作らんが為のリークを検察がするのは間違っている。(そんなリークをする弁護士は懲戒の対象になるかもしれない)。
被疑者の人権問題になりかねない。
検察のリークがほしいマスコミは、まるで飼い主からえさをもらう犬のように、飼い主には吠えず、ただ気に入られようとするあまりにしっぽをちぎれんばかりに振ることになる。
検察のリークで紙面や番組を作っている新聞やテレビに検察批判ができるのか。
検察がもし間違ったことをしたときに、マスコミがどれだけそれを報道できるのか」
(ブログごまめの歯ぎしり「副大臣がやり残したこと」 2010年1月21日 17:18 )

フリージャーナリスト岩上安身氏もこう言っています。「検察と、主要マスメディアがやっていることは、集団狂気による集団リンチでに等しいと思います。捜査のデュー・プロセス(法に基づく適正手続)も、推定無罪の原則も、冤罪可能性への配慮も、集中報道による人権侵害の懸念も、何もない。

検察もマスメディアも大きな権力

わたし自身は小沢氏にも民主党にも問題を感じるところはありますし、無条件に擁護したいわけでもありません。ただ、同じ権力であっても政治家は選挙という国民の洗礼によってその地位を剥奪することができる存在です。それに対し、検察やマスメディアという権力は国民が選ぶことその地位を剥奪することもできません。権力を持ったそれらの組織が一体となって今回のように政治的に影響を与えてしまうということは本当に憂慮すべき問題だと感じるのです。

検察=正義の観点に立つ論者たち

検察の様々な問題点には目をつむり、検察というものは正義という前提で主張をしている者たちがいます。かつて小沢氏の師匠である田中角栄の金脈を暴き、辞任に追い込んだことで一躍名を上げた立花隆氏です。フリージャーナリストの上杉隆氏が『週刊朝日』誌上で検察の非人道的で違法な捜査のあり方を報じました

その内容は特捜部の事務官7人が逮捕礼状なしに国会の石川議員の事務所に乗り込み、内側から鍵をかけて占拠したこと、石川議員の女性秘書を押収品の返却という名目で呼び出しておいて、だまし討ちのように被疑者として取調べを行い、保育園の迎えにさえ行かせず、10時間も拘束して取調べを行ったというのです。こんな大問題を一般のニュースはもちろん、ワイドショー的な番組でさえ報じませんでした。何日か経って、いくつかの新聞が、検察の発表をそのままの「東京地検が『週刊朝日』に抗議文を送った」とする記事を小さく掲載しただけというのです(新聞の「説明責任」を問う EGAWA SHOKO JOURNAL 2010年02月07日)。


立花隆はこれについて「ガチガチの自白証拠で二百%固めなければこういうケースは立件できないなどと思うからつい自白を求めて無理な取り調べをすることになる。そして、検察憎しの立場に立つ一部マスコミにバカバカしい批判を許してしまうことになる。」とこともあろうか検察のこの取調べをまったく問題だと思っていないようです(立花隆が緊急寄稿(2)「小沢不起訴」の先を読む

それから元共同通信の記者で、現在は「独立総合研究所」というシンクタンクの代表である青山繁晴氏は自身がレギュラー出演しているフジテレビ系列の関西ローカルの『ANCHOR(アンカー)』というニュース番組において、今回の問題について検察の首脳陣を含めた関係者から聞いた話だと言って捜査の内情とか今後の捜査方針などのリーク情報と言えるようなことを公然と語っています。そして、「世界の、国連加盟192カ国の中で、司法の独立という点では、日本の民主主義が一番信用できるんですよ」と言っています(関西テレビ 『アンカー』2010/2/3


マスメディアの問題点

ただ、事件当初から検察やマスメディアがおかしいという批判をするメディアやジャーナリスト、識者も少数ではありますがいます。郷原信郎氏、上杉隆氏、佐藤優氏、鳥越俊太郎氏、勝谷誠彦氏、植草一秀氏、岩上安身氏、神保哲生氏、魚住昭氏、宮崎学氏、副島隆彦氏、高野孟氏、江川紹子氏らなどです。一握りでもこういう人たちがいることは救いです。


上杉隆氏は今回のマスメディアの報道について「供述内容や押収物の内容がどんどん漏れてくるのは異様である」と指摘し(TBSラジオ小島慶子キラ☆キラ』2010.1.26放送)、「事前にメディアに捜査情報が漏れる場合は、捜査が芳しくない状況にあるか、あるいは「死に筋」であったりする。つまり、リークによって局面を打開するためにメディアを利用するのだ。」と語っています(「小沢問題で検察リークに踊らされるメディアへの危惧」 ダイアモンド オンライン【第110回】 2010年01月21日)


これに対し、ほとんど検察OBの中で唯一検察を批判している郷原信郎氏はリークがあることよりももっと重大な問題として司法メディアは検察と方向性が一致しているためほとんど検察の言っていることと内容が変わらず、疑問視したり、批判的な観点がまったくない」ということを挙げています(【インタビュー記事UP】4日、小沢問題についての検察会見を“リーク”する〜特捜OB郷原信郎(1) 内憂外患)。


検察の捜査に批判的な報道番組を公平でないと批判する櫻井よしこ氏でさえ「当局(検察)の思惑に振り回されないために、各社、各番組が独自の取材に力を注ぐことを期待する。この局面で、検察リークの情報に頼って報ずるとしたら、それこそ、「国策捜査」に加担することになる。」と述べています(櫻井よしこ ブログ「 民主党代表、小沢一郎氏の秘書逮捕でジャーナリストに求められる報道姿勢 」)。


日本特有の記者クラブメディアの弊害

上杉隆氏は世界の中でも”日本にしか存在しない「記者クラブ」という特権的、閉鎖的な存在が日本のジャーナリズムをダメにしていると批判しています。ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラーも次のように語っています。「私は、記者クラブのことを『一世紀続く、カルテルに似た最も強力な利益集団の1つ』と書きました。(中略)そのことを実感したのが、西松建設事件を巡る報道です。記者クラブによるほとんどの報道が検察のリーク情報に乗るだけで、検察の立場とは明確に一線を画し、(中略)独自の取材、分析を行う記事はなかったように思います。」(『SAPIO』1月4日号、筆者インタビュー記事より)

検察側は記者クラブ所属の記者との懇談の場は持ちますが非公開であり、司法マスメディアは捜査を担当した検事や首脳陣の名前を決して出しません。これは上杉氏が言うようにフェアではないですね。



マスメディアが検察に追従する訳

マスメディアがここまで検察と一体となるのは何が原因なのでしょう?

特定の資本が多数のメディアを傘下におく「クロスオーナーシップ」を禁止する民主党の政策は原口一博総務大臣の会見で知られるようになりましたが、もともと民主党が掲げていた政策で、マスメディアが黙殺していたので知られて来なかったようです。この民主党の政策で既存の権力、利権を脅かされるのを何とでも阻止したいという大手メディアの思いと検事総長人事の見直しや取調べの可視化などを阻止したい検察の思惑が一致したため小沢潰し、民主党潰しのためのスクラムを組んだということなのでしょうか? 今後調べて行きたいと思います。