検察は簿記も理解せずに国会議員を逮捕したのか?
本当に逮捕しなければならないほど悪質な犯罪だったのか?
マスメディアで報道されて来た内容やその論調からすれば、小沢氏の政治資金団体の問題は不正な裏金を隠すと目的という悪質な目的で政治資金収支報告書をごまかしたと多くの人は思っているでしょう。しかし、結局、肝心のゼネコンからの贈収賄ということは立証されず、小沢幹事長の秘書・元秘書ら3人の起訴事実は政治資金規正法違反(虚偽記入)というものです。
元特捜部の弁護士、郷原信郎氏からこの事件に関し、会計の専門家としての意見を求められた公認会計士の細野祐二氏は、この件について論文を発表しました。
公認会計士の目から見た陸山会政治資金事件 Infoseek 内憂外患
神保哲生氏が主催するニュース専門のインターネット放送局、「ビデオニュース・ドットコム」でインタビュー動画が見られます。
インタビューズ (2010年02月19日) 単式・複式簿記の違いが解れば小沢氏政治資金問題は氷解する細野祐二氏(公認会計士)インタビュー
やり手の公認会計士も検察にはめられた?
この細野氏はあまたの企業の財務諸表を見てきた公認会計士であり、2005年4月、シロアリ駆除の上場企業、キャッツ経営陣による株価操縦事件に絡み、東京地検特捜部に起訴されました。裁判では、会計学者から粉飾ではないとの鑑定意見が出され、他の容疑者による被告に有利な証言が相次いだものの一、二審とも敗訴し、現在は上告して闘っておられます。 上告の理由は検察官が証人に証言のリハーサルをさせるという偽証教唆が行われていたことが憲法違反であることと、著しく社会正義に反する事実誤認もあったとして上告しておられる最中です。
検察の非人道的な取調べ
検察における自身への厳しい取調べについて、「身の毛もよだつ取調べを受けた」、「人間として持つべき最低限の尊厳をえぐられる」と語っておられ、この事件について検察の問題を告発する著書も出しておられます。
『公認会計士vs特捜検察』 (日経BP社 2007年11月)
「捜査した人間が立件する特捜部という特別な存在はどうしても立件したいから、無理な捜査をし、冤罪を作る可能性があるということから憲法違反だ」と主張しておられます。
陸山会の政治資金収支報告書をめぐる問題についての細野氏の分析
この細野氏は石川議員の行った収支報告が「真面目な性格で、複式簿記を理解していない素人が陥る典型的な過ち」であることは明らかで、同じく複式簿記を理解していない特捜検察が、それを勝手に解釈してストーリーを描き、その線に沿って無理な捜査を進めた結果、誰にとっても不幸な結果を生んでいると指摘しておられます。それとなんと驚くべきことに、政治資金収支報告書に資金移動の事実をどのように記載しなければならないかははっきり決められていないというのです。ということは何を違反とするかは検察の裁量によるので、恣意的で不公平な捜査が行われる要因になるのではないでしょうか?
会計の簿記の方式には現金の動きだけを記載する「単式簿記」とすべての簿記的取引を借方と貸方に同じ金額を記入する「複式簿記」があるそうです。例えて言うなら「単式簿記」は”静止画”であり「複式簿記」は”動画”であり、「複式簿記」は経済活動を動的に捉えることができるのですが、政治資金収支報告書は単式簿記方式での会計報告書の作成が義務付けられているため、現実のお金の動きの詳細がわからないようになっているようで、今回の問題でも複式簿記であれば、小沢氏のお金か陸山会のお金かは最初から別の簿記として分かれるようになるそうです。
細野氏は検察は「お金の動きが怪しいので、裏献金があるに違いない。」、「政治資金収支報告書は嘘である。お金が入っているので貸付にしないといけないのに、不動産の購入が翌年になっているのはおかしい。」と考えたと推察しています。
以下は細野氏の分析です。
2004年に土地を買う際に、陸山会は4億円がなかったので、小沢氏から現金で4億円を借りる。
10月29日、4億円には1億8千万ほど不足したので他の政治資金を集めた。4億円の現金を複数の金融機関に預けて、さらに一つの金融機関に集めた4億円の定期預金を担保に小沢一郎名義で金融機関からお金を借りた。
小沢氏から陸山会が受けた現金で4億円は借受金
小沢一郎名義で金融機関からお金を借りた4億円は貸付金
最初に小沢氏が出した現金の4億円は典型的な仮払い、借受である。
政治資金収支報告書は借受金は記載してもしてもしなくてもよい。また小沢氏から現金で4億円は記載しなくてもよいとされる借受金なので石川議員が記載しなかったことは正しい。
4億円の定期預金を担保に小沢一郎名義で金融機関から4億円を借りたものを陸山会は小沢氏から借りた。小沢氏から実質的に4億円を借りたことになったので、小沢氏からの借入金4億円と記載したことも正しい。
陸山会は4億円の定期預金を担保に小沢一郎名義で金融機関から4億円を借り、3年後の2007年に定期預金を解約して小沢氏に借りた4億円を返済した。ゆえに4億円の定期預金は名義は陸山会だが、実質的には小沢氏のものなので政治資金収支報告書に陸山会の資産として記載せず、簿外にすべきであったのに、2004年度の政治資金収支報告書に石川議員は名義と実質的所有を混同して、4億円の定期預金を陸山会の資産として記載してしまった。
自白ではなく財務資料でこそ真実がわかる
細野氏は「経済事案は物証がないから供述が中心になるという考えは誤りであり、物証は会計帳簿であり、一冊の財務資料は一遍の長編小説に匹敵する情報量がある。」と語っています。
財務資料を物証と考えないため、関係者に対する脅迫的な取り調べを行う。
普通は自白する(させられる)。自白しなかったのは運。自分が自白しない場合、関係者を自白させる。司法取引をやって証人に仕立てる。
自白では真実はわからない。客観的資料である複式簿記の帳簿を調べればよい。
今回の事件についても細野氏は「検察が(例の手法で)またやっているなあ」と感じたそうです。つまり、「検察が描いたストーリーに合わせて関係者を呼び出して、ストーリーに合わせた自白調書を取って、立件して有罪を確定させる。特捜検察が信じる社会正義を達成してゆく。」と述べています。
ただ、細野氏は会計のプロから見た問題を指摘しているのであり、郷原氏と同じく小沢氏を擁護しているわけではなく、この一連のお金のやりとりについて「いろんな想像をめぐらされても当然のような不自然なお金の出し入れをしている」と小沢氏側の問題点も指摘しています。